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鯛枝朗様より頂き物SS(前編2話) 

こんばんは。
28日の9時付けでご入金を確認させて頂いた分の本を発送しました。
(27日の午後にお振込み頂いた方が該当します)
ご確認の程、どうぞよろしくお願いいたします。

さて!今回は素敵頂き物ですー!!
以前も関西図書隊の素敵SSをお送り頂きました鯛枝朗様より、堂郁小説を頂きましたv
こちらに掲載させて頂くのは4作の読み切りなのですが
実はオムニバス形式になっておりまして、連続した時系列で楽しめるという凄くレベルの高い作品です。
またこちらは全5部作で「幸福の花」様に寄贈なさった作品ともリンクしているとのこと。
『恥ずかしすぎるから勘弁して』→『誰よりも先に』(「幸福の花」様掲載分)→『アドバイスの責任』
→『ミッションポッシブル』→『望むところですっ』となります。

こちらの記事では『恥ずかしすぎるから勘弁して』と『アドバイスの責任』を掲載させて頂きます。
次の記事に『ミッションポッシブル』と『望むところですっ』も掲載させて頂きますので
是非一気読みをお楽しみくださいませ~v

READ MOREからどうぞ♪




【恥ずかしすぎるから勘弁して】

扉の向こう側で、カチャカチャという音と、鍵を回す音が聞こえた。

田舎では家に居る時どころか、ちょっとそこまで出かけるくらいなら鍵なんてかけないけど、大学入学で上京してからは、部屋に居る時でも鍵をかけることが習慣となった。

続いてドアが開閉する音。あたしは、まだ振り返らない。

さりげない風を装って、ファッション誌の『秋のトレンド特集』を見続けるフリをする。

この後笠原は、『柴崎~! き、聞いて~! あのね、あのね…』と、飛びついてくるはず…。

はず… はず… あ、あれ?


なんだかおかしいと思って、ドアの方を見やったあたしに見えたのは、これまで見たことのない光景で、思わず目を疑ってしまった。

戻ってきた笠原が、ドアを後ろ手に閉め、もたれ掛ったまま呆然と立ち尽くしている。

元気な時は勿論、凹んでいる時も哀しんでいる時も怒っている時も、その表情をクルクルと替える笠原に、表情が無い。

意識せずとも表情を作ることが癖になっているのがあたしなら、いつどんな時でもストレートに感情が顔に出せるのがこの娘なのに。

それは決して羨ましいとかそういうことじゃなくて、あたしには3回死んでも絶対真似できない程、何でもかんでもすぐに顔に出しちゃって、それだけで考えてることが伝わる。というかバレる。

その笠原が無表情でいる所なんて、一度たりともお目に掛ったことが無い。

その眼差しは何も捉えておらず、あたしがここに居ることすら見えてないような。

例えて言うなら… そう、『魂が抜けた』みたいな?

え? えぇ? これって、ど、どういうこと?


「―――ちょっと笠原!あんたどうしたのよ!」

「ーーーあ、ごめん。何でもないよ。ただいま」

いやいやいやいや! あんたね、その顔でそんなこと言っても、説得力ゼロだから!

逆に『何かありました』って言ってるようなもんでしょーが。

そんな力のない笑顔を無理やり作っちゃって、それじゃまるで失恋でもしたみたいじゃない…

って… え? う、嘘っ…まさか… まさかそんな事あるわけないのに…


基本的にあたしは他人の恋がどうなろうと、気にならない。 ぶっちゃけ、どうでもいい。

だから、あたしがこんな風にこの娘たちを気にすること自体、普通じゃない事は自分でも解ってんのよ。

だけど… 今日、この娘は堂上教官のお見舞いに行ったのよね。

『当麻先生亡命の護衛』任務から戻ってきて、なんだかんだ言い訳してなかなか行かなかったけど、今日はあれ以降初めての公休で、やっと意を決して行ったんだったわよね。

新宿の書店の店長さんがどうして二人を『恋人』だと思ったのか、結局口を割らず仕舞いだったけど、そこはそれ、そう思われるだけの何かがあったことは間違いないわけだし…

まぁしかし、この笠原にしても、堂上教官にしても、お互いの事を想っているのは周りにダダ漏れなのに、解っていないのは当事者だけなんだもの。

あの朴念仁の同期ですら、最近は薄々気づき始めたってのに。

で、あたしの予想では、今日はきっと告白してくるだろうな… って。

―――でもって、この状態で帰って来たってことは… えええっっ!?


最悪の状況を想像して動揺している自分に気付き、あたしは更に動揺した。

このあたしが、掛ける言葉を見つけられずにいるなんてあり得ない。

「か…笠原…夕飯は食ったの?」

着替えることもせずにノロノロと自分のベッドに上がる笠原に向かって、ついまぬけな言葉を掛けてしまった。

「食欲ないから、今日はいらないや…」

誰よりも美味しそうに、誰よりも良く食べる笠原の、信じられない言葉を聞いて、あたしの不安は確信に変化した。


まっ…まじで? どうすればいい? 今、あたしが笠原にしてやれる事は何?

取り敢えず普段通りに接して、落ち着いてからゆっくり話を聞いてやらなきゃ。

あたし自身からして気持ちの整理がついていないことだし…

「あっそ。じゃ、風呂は?あたし今から行くけど。」

出来うる限り平静を保ちながら、風呂の準備をして誘ってみたけど、先に行ってて。と笠原は答えた。

暫く独りにしておいて欲しいってことか。

未だ力のない笑顔で答える笠原の瞳には、心なしかうっすらと涙が浮かんでいるようにも見える。

じゃあ先行ってるわよ。とあたしは静かにドアを閉めた。





◇◆◇





風呂を上がる頃にはあたしの動揺は幾分落ち着いてきていたけれど、今度は怒りが沸々と湧いてきた。

あのバカ、一体何考えてるんだっつーの。

周りにバレバレなくらい、笠原の事意識してたんじゃないの?

あの娘に寄って来る輩を、必死で追い払ってたじゃない。

ふたりでカモミールティーデートにも出掛けたでしょーがっ。

手も繋いで帰って来たじゃない。

純情乙女な笠原に、あんなことしておいて、今更?

この期に及んで、逃げたってわけ?

ヘタレっぷりにも程があるわっ!


少し頭を冷ましてからじゃないと、上手く向き合う自信が無かったので、そのまま共有スペースへ足を向けた。

共有スペースでは手塚がいつもの場所でいつものように夕刊を読んでいたが、そんな事にはお構い無く、あたしはいつもの場所つまり手塚の前の席にドカリと腰掛けた。

「どうした?えらくご機嫌斜めだな。」

暫く無言でいると、そんな言葉を手塚に掛けられた。

周囲には、物思いに耽っているようにしか見えてない筈なのに、同僚か友達かはたまたそれ以上か、あたしにとって位置付けの曖昧なこの男はには解ってしまうらしい。

あぁ、そういえばこいつとこの間呑みに出掛けた時に、あの二人はその内付き合い出していずれ結婚するだろうってくだ巻いたっけ…


「あたしの機嫌が悪かったらあんたに何か迷惑掛かるわけ? 放っておいてよっ!!」

気になるんだったら、自販機のチューハイ奢んなさいよっ。 と持て余した怒りのぶつけ先に、こんなところだけ敏感なこの男を選んでしまう。

奢らせるということで、充分迷惑は掛けているのだが、それはこの際どうでもいい。

手塚は呆れた様子で、でも、すんなりと缶チューハイを買ってくれる。

それも、聞きもしないくせにあたしの好きなグレープフルーツチューハイ。

そういう気の回るところが、またあのバカ男と微妙に重なってイライラが増す。


「で? 何に怒ってんだ?」

「うっさいわねっ!放っておいてって言ってんでしょっ」

手渡されたチューハイを受け取って礼も言わずに呷っていると、人に奢らせておいて、礼どころか八つ当たりかよっ! と怒鳴り返された。

あ… おっしゃる通り、これって八つ当たりかも… 

そうね、あたしがイライラして、手塚に八つ当たりしてる場合じゃ無かったわ。

なんか手塚に悪いことしちゃった…か…な。

「そうね、ごめん。 …でも、今はちょっと話せないのよ。

いずれあんたにも話せるときが来るかもしれないわ。あんたの奢りで呑みながらね。

あ、たまにはあたしがあんたに奢るってのも悪くないわね。 …これ、ごちそうさま。」

手塚は何に驚いたのか、珍しく目を真ん丸にしている。

半分ほど空いた缶を軽く振って、あたしは共有スペースを後にした。





◇◆◇





部屋に戻ると、件の笠原は居なかった。

どうやら、入れ違いに風呂へ行ったようだ。

さて、どうしたものか。

取り敢えず、温かい紅茶でも淹れて気持ちを落ち着かせてやろう。

そうだ、今日はいつものじゃなくて、とっておきのいいやつを淹れてやろう。

そうこう考えながら用意しているところに、笠原が風呂から帰って来た。

「おかえりー。今、美味しい紅茶淹れるところだから、ちょっと座んなさいよ。」

「ん。ありがと…」


よし! 取り敢えずベッド直行の阻止には成功。

相変わらず笠原の目は虚ろで、無理に口元だけ笑ってるって感じ。

心なしか顔色がよくなって見えるのは、落ち着いたからというよりも、単に風呂で血行が良くなったからかしら。

流石いい紅茶は美味しいわね。 ねぇ、今度またあの茶葉屋さんに行ってみない?

なんて、当たり障りのないことを話しても、笠原の反応はイマイチ。

さて、どうしよう。こちらから話を振るべきかしら…


思いあぐねていたら、突然笠原が重い口を開いた。

「―――今日ね、あたし… 堂上教官のお見舞いに行ったんだ…」

「ん。そうだったわね。 教官元気そうだった?」

入院しているのだから元気も何もないのだが、話の腰を折らないように気を付けて先を促す。

「あたし、思い切って『教官のことがずっと好きでした』って告白したんだよ…

そしたら…そしたらね… うぅっ…」

そこまで喋ったところで笠原は、体育座りの自分の膝に顔を埋めて、嗚咽を漏らし始めた。

「もういい! もういいよ、笠原。もう何も言わなくていいから。」

自分から話を促しておきながら、これ以上聞き続けることに耐え難くなって、あたしは思わず飛びついて笠原をギュッと抱きしめた。


こんなに純粋に恋をして、体当たりで告白したっていうのに…

あのクソバカヘタレ教官は、自分だけ逃げたってこと? 自分が上官だから? 

なんじゃそれっ! 呆れて物も言えんっつーの!

笠原の気持ちに答えてやれないなんて、じゃぁなんであんなに笠原に気を持たせるようなこと、してきたのよっ。

鼻の奥がツンとした。



暫く抱きしめたまま、あやすように背中をトントンしてやっていると、漸く涙も落ち着いた笠原がまた話し出した。

「―――そしたら、教官がキスしてくれたんだ…」

は??? 今、なんとおっしゃいました???


「優しくキスしてくれて『分かったか?』って… あたし、なんだか信じられなくて…」

今までの人生、玉砕専門だったから、まだ信じられないんだよね。

とかなんとか喋る笠原の言葉が耳に入って来るが、すぐには理解が伴わない。

「ねぇ柴崎、これって夢じゃないよね… イタッ! って、何すんのよぉ。」

あたしの頭の中で、何とか理解至ったそれは怒りに変換され、まず指先からデコピンとなって笠原に反撃を開始する。

「てか、あんた何か?! 告白してチューで返事返されたのが夢みたいで、魂抜けてたってか?! なんなのそれっ!」

「そっ、そうだったんだけど… イタッ! 痛いから夢じゃないって解ったよぉー。

イタッ 痛いってば、柴崎! もう解ったから!」

あたしの気持ちをどうしてくれよう!

初めて恋が成就したことに、パニックを通り越して魂抜けるなんて、どこまで予想の斜め上の行動をとってくれんのよ!

あたしとしたことが、他人の事でこんな思いをして、認めたくは無いけれど狼狽えたなんて、自分でも信じられない。いや、自分だからこそ信じられない。

逃げ惑う笠原を執拗に追い続け、デコピンを30発程食らわしたところで、疲れたので終わりにしてやった。

部屋の隅まで逃げて、おでこを押さえながらびくびくしている笠原を見ると、今度は無性に可笑しくなってきて、目が合うと二人で大笑いした。


「おめでとう。良かったじゃないの。」

「う、あ、…ありがと。」

改めてそんなこと言われると恥ずかしいよ。とこの純情娘は真っ赤になって俯いた。

普段はそんじょそこらの男以上に男前なくせに、なんて可愛いんだろ。

あー、あの男に渡すのが益々惜しくなるじゃない。

デコピンくらいじゃ腹の虫が収まらないから、もう一度抱き付いて、今度は耳元で囁いてやった。

「これから、沢山キスしてもらいなさーい」

山猿から大人のお・ん・なにして貰うのよ。と色んな意味をいっぱい含んだ顔で告げてやると、今度は顔だけではなく全身を真っ赤に染めて、じたばたともがき出す。

「うぁぁぁぁーー! やめてー! 恥ずかしすぎるから勘弁してー!!」

その様子があまりにも面白くて、あたしをあんなに狼狽えさせた罰として、何度も言葉で攻め立ててやった。

その度にぼふんぼふんと爆発する勢いで真っ赤になるのが可笑しくって、お腹が捩れるかと思うくらい笑ってしまった。



「あー、なんだかお腹空いてきちゃった。コンビニ行ってこよっと。」

大食らいの笠原が夕飯を抜いているんだから、気持ちが落ち着けばお腹が空いていることを思い出して当たり前よね。

いそいそと出かける用意をする笠原に向かって、「あたしに、アイス奢んなさいよ。」と言ってやると、笠原はぶつくさ文句を垂れたけど、問答無用で押し切ってやった。

本来ならば、外ランチデザート付くらい奢らせたいところだけど、アイスで勘弁してやるわ。

「―――プレミアム抹茶アイスね!」

但し、京都の老舗が最近発売した高級アイスを強請ることにした。

これは、遠い方のコンビニにしか置いていないんだけど、アイスで勘弁してやるんだから、そのくらいは許されて当然だわ。

なんであたしが奢んなきゃなんないのか解んないよー。とまだ納得しきれていないままに出かけようとする笠原に向かって、あ、それと!と呼び止めた。

「今度お見舞いに行ったら、教官に柴崎が謝ってたって伝えて。」

何を謝るの?と笠原は不思議がったけど、「あんたには解らなくていいのよ。」と答えて送り出した。



笠原が出掛けてから、先ほどの言葉攻めで真っ赤になる様子を思い出したら、また笑いが込み上げてきて、一人なのに爆笑してしまった。

笑い過ぎて、涙が出た。

そう、これは可笑しくて笑い過ぎた涙… に決まってる。


でも… よかった… 本当に良かったわ。

おめでとう笠原。あんた、幸せになんなさいよ。


END






【アドバイスの責任】



退院して隊へ復帰してから、堂上にはある悩みができた。―――





8年越しの想いが実り、漸く郁と付き合うようになったのは入院中の出来事だ。

入院している間は、郁がせっせと通ってくれたので病室デートを楽しんだ。

リハビリが始まってからは、病院内の庭先を二人で並んで散歩をした。

郁は草花や樹木のことをよく知っており、そちら方面に疎い堂上にとってはひとつひとつが新鮮で楽しいものであった。

しかし、所詮その程度だ。

その頃は、早く退院して郁と一緒にいろんな場所へ出掛けてデートをしたいという気持ちで一杯だった。

郁の楽しい所へ連れて行ってやりたい。

郁に似合うものを買ってやりたい。

郁が好きな物を一緒に食べたい。

郁が喜ぶことなら何でもしてやりたい…

やがて退院の日を迎え、公休の度に郁とデートに出掛けるようになり、堂上の願いは少しづつではあるが叶いつつある。

この歳になって、恋人と過ごす充実した時間の楽しさを改めて噛みしめている。

ただ一点、こんな悩みが生じるとは、入院期間中には思いもよらなかった…





◇◆◇





長い入院生活を終え、漸く堂上も無事に復帰を果たし、以前と変わりない日常が戻ってきた。

いや、変わったといえば劇的に変わったことがひとつある。

何しろ、長い間お互いに相手の事を想っていたふたりが、漸くというかやっとというか、晴れてカップルとなったのだから。

小牧には自分を筆頭に、周りでやきもきしながら生暖かく見守っていた連中が、ホッと安堵の胸をなでおろしているように感じられて仕方がない。

しかし、そのこと以外はほぼ元通りといえるだろう。

こうして、堂上の部屋へ堂上班男子が集まって呑むのも勿論そのひとつだ。

とはいえ、今日の堂上は少し様子が違っていた。手塚は全く気付いていないようだが、小牧にはその微妙な雰囲気の違いが解った。

妙にそわそわしているようで、落ち着きが無く、何かもの言いたげにたまにちらと小牧を見るが、特別何かを話始めるわけでもない。

小牧にとってはかなり気になる状況であったが、敢えてそれに気づかないフリをして、ただいつものように呑んで笑っていた。

やっぱり… と感じたのは、堂上が手塚に「ビールとつまみが足りないから、コンビニへ買い出しに行ってきてくれないか」と言い出したからだ。

どう考えても、あからさまな人払いにしか思えないその言葉だったが、真面目で優秀な部下は、何の疑問も持たずにすぐさま出掛けて行った。





「お前に、相談があるんだが―――」

手塚の足音が聞こえなくなった途端、堂上が唐突に口を開いた。

「いや、相談じゃなくて質問と言ったほうがいいのかもしれんが…」

小牧はまだ手元に残っているビールを呑みながら、何?と軽く片方の眉を上げてさりげなく答えた。



いや、その、なんだ… えっと、だから、その… あー、つまりだな… 意味不明な言葉を連ねるばかりで一向に本題に入れないまま、堂上の頬が少しずつ赤く染まっていくのが解る。

「だから、一体何の話をしてんのさ。」

ハッキリ言ってくれなきゃ解んないよ。と口では言うものの、赤みの挿す頬を見れば郁との付き合いに関する事だろうと、小牧には容易に想像が付いた。



この生真面目な男は、自分では気づいていないが中々のフェミニストで、小牧からしてみると優しいのか優柔不断なのか微妙だと感じることもしばしばだ。

しょっちゅう誘導尋問に引っ掛かってポロリと漏らす、惚気にしか聞こえない言葉の端々にも、付き合い始めた相手が初心過ぎて苦戦していることが窺える。

その手の苦労は、ある程度ならば恋する男にとっては当たり前で、ある意味嬉しい悩みだけれども、度が過ぎると結構キツイものだ。

どの程度のスピードでどういうステップを踏んで行くかなんていうのは、世の中のカップルの数だけ違いがあって当然だ。

ただ、俺たちも結構いい歳だし、こいつの場合は出会ってからの時間や相手の年齢が障害になるわけでもない。

普通に考えれば、トントン拍子にステップを登って行ったとしても、何の不思議も無ければ驚くことも無い。

だとすれば、そろそろ『初めての女性をベッドに誘うにはどう接してやるべきか』などということを、くそ真面目に悩んでいるってとこだろうか。

何しろ相手があの笠原さんだから。

男性と付き合うのも初めてだと、本人が言ってたくらいだし、キスもましてやそれ以上の事も全く経験が無いのだろう。

今時の世間の風潮から考えると、二十代半ばの女性としてはある意味貴重な存在だ。

いつまで経っても唸るばかりで、一向に本題に入らない堂上に痺れを切らし、で何なのさ?とビールを呑みながら先を促してみる。



いいか、ここだけの話にしろよ。絶対に他所で言うなよ。とまず厳重に釘を刺してから、堂上は漸く話し出した。

「ーーーお前は、あー、あれについてはどうだったのか教えて貰えればだな、うー、有難いと言うか何と言うか…」

「どうもこうも、俺は毬江ちゃんが二十歳になるまでは抱かないって誓って、彼女にもそう約束してたし。まぁ、あの頃はばたばたしてたから、ちょっとタイミングがずれちゃったけどね。」

いくら何でも、子供の頃から知っている近所の女の子、しかも家族ぐるみの付き合いなのに、未成年には手ェ出せないしね。

だから、俺としては限界まで耐えたって感じだったけど。



「ーーーいや、そうじゃ無くてだな… あー、つまり場所的な問題なんだが…」

「そりゃ、せめて最初は少しお洒落なシティホテルにしてあげるべきでしょ。」

まさかコイツ、いきなりその手のラブホテルに連れ込むつもり?

あり得ねー、それはあり得ないだろ堂上。

さっきまで何処かの誰かがヤってました、さぁ、これから自分達もそういうことを致しますよ。っていう場所は、笠原さんじゃなくても初めての女性にはハードル高過ぎでしょ。



「いや、だから…そういうことじゃなくて…毬江ちゃんと、ということじゃなくてだな…」

「何で恋人が居るのに、今更他の女性を抱かなきゃなんないわけ? 堂上に、俺はそんな男だと思われてんの?」

コイツ、何を言い出すかと思えば、言うに事欠いていきなり浮気の心配か!

あれだけ長い間たった独りを想い続けてたくせに、手に入れた途端、浮気願望って!



「違う違う違う!お前に限ってそんな奴だなんて、微塵も思ってない!

…だから…俺が聞きたいのはだな… お前、昔隊内恋愛してたろ。あの頃は何処でしてたのか…と思ってな…」

「何処でって、ホテルに決まってるじゃない! 外でなんてするわけないでしょ。

ま、世の中にはそういう奴らもいるけど、俺にはそんな趣味は無いよ!」

浮気願望については力一杯否定したが、今度は見られたい願望?? コイツがそんな性癖の持ち主だったとは長い付き合いだが、全く知らなかった。

しかも、今更5年も昔の話を持ち出して何を言い出すんだ。



「だから、そっちじゃ無くて!そういうことの手前と言うか…お互い寮生活だと色々困ると言うか何と言うか… 大学の時付き合ってたのはどれも相手が独り暮らしだったし、高校の頃は実家の自分の部屋で鍵掛けてパパッと…」

またもやゴニョゴニョと言い渋る。

パパッてなんだ!パパッて!!

いくら若かりし頃とはいえ、そんな自分本位な抱き方していいわけないだろう!

女性を冒涜するにも程がある。

しかし一体、何を照れてるんだコイツは。

余りに長きのご無沙汰で、女性の抱き方をすっかり忘れてしまったとでも言うのか。

いくらなんでもそんなこと、教えろなんて言われても、勘弁して欲しいんだけど。



「何が聞きたいのさ。ハッキリ言わないなんて、らしくないんじゃないの?堂上。

早くしないと、いい加減手塚も帰って来るけどいいの?」

煮え切らない態度の堂上に対して、少しイラつき気味に小牧はビールを呷った。

「だから!何処でキスしてたかって、聞いてんだよっ! 退院してから困ってんだっ!」



ブーーーッッッ!!!丁度含んだところのビールは、なんとも美しい弧を描いて炬燵のテーブルに着地する。

と同時に、長い付き合いの堂上でも見たことの無い、いや小牧自身経験したことの無い、史上最大ディープインパクト級の上戸に見舞われた。

「あーはははははっ!!なっ…なに… 堂上… ぶぶっ… キ、キス… ははははっ… できる… ばっ… ふはは… 場所… が… はははは… なっ… 無くて… うぷぷ… こっ… 困ってんの?… ぶっ… おっ… 俺はてっきり…」

「アホかっ! そっちはまだまだ先だっ!!」

息継ぎもままならない状態で炬燵テーブルをバンバン叩きながら、あまつさえ涙まで流して、俺絶対いつかお前たちに笑い殺される… と小牧は声を絞り出している。

既に真っ赤になっていた堂上だが、あまりの爆笑っぷりに眉間に皺が寄る。

「やかましいわ! 笑い過ぎだ、こまきっ! 人が真剣に困ってるってのにっ!

もういい! お前に聞いた俺がバカだった。」

ごめんごめん、そんなつもりじゃないんだけど… と謝りつつも、まだ小牧は笑いを引きずっている。

「でも、そんなのどこだってできるでしょ。…っぷっ… デート帰りに夜の公園とかさ。結構たくさんいるよカップル。」

「そ、それについては… 実施済みだ…」

「ぶっ… あー、そうなんだ。ははは… つまり堂上が聞きたいのは、週に一度しかない公休日デート以外の日は、どうすりゃいいのかってことなんだね?」

あー、そうかそうだよねぇ。入院中の堂上の歯磨き粉の減り、やたら早かったもんねぇ。

うんうん、とひとりごちる小牧を無言で睨みつける堂上は、真っ赤なまま更に眉間の皺が深くなるが、否定しないところをみるとそういうことなのであろう。



「みんな官舎裏やら訓練場の奥やらで、キスしてるじゃない。知らないの、堂上?」

寮暮らし同士で付き合っていて、そういう場所に困っているのは、何も堂上だけではない。

共有スペースの陰でという強者も中にはいるが、たいていは暗くなってから基地内の建物の裏や訓練場奥の木陰でささやかなデートをしてキスもするというのは、代々受け継がれてきた伝統のようなものだ。

堂上とて、ばったりそういう場面に出くわしてしまい、非常に気まずい思いをしたことも一度や二度では済まない。

「いや、しかしだな… 若い連中ならともかく、俺たちぐらいの立場になるとどうかと思わないか。」

「恋人に立場なんて関係ないでしょ。それに、俺たちより先輩だってやってるよ。」

「…そういうもんか…な。」

「そういうもんでしょ。いいじゃない、笠原さんを誘ってみればさ。」

「他の奴らもやってること、俺たちがやって何が悪い…ってとこか。」

「そうそう、一人で悶々としてるよりよっぽどいいんじゃない? みんなやってることだよ。」

堂上は、ああ。 と答えはしたが、あの奥手の郁が、いくら夜であろうと基地内でキスすることにどんな反応を示すかと思うと、考えることすら恐ろしい。

拒絶されでもしたら、立ち直る自信が無い。





「スミマセン!遅くなって。いつものビールが近い方のコンビニで売り切れてて、遠い方…

あれ?堂上二正どうされました? 体調悪いんですか?」

そこへコンビニ袋を抱えて戻ってきた手塚が、堂上の赤い顔を見て心配げに問う。

当然、小牧は再び上戸の世界へ旅立ち、慌てた堂上は、暖房を入れ過ぎて暑いだけだ! と誤魔化すのに苦労するはめになった。





◇◆◇





あんな話になってしまったので、今日はどうも呑んだ気がしない。

ビールではなく、もう少し強い物が欲しくなり、堂上はロビーへ酒を買いに降りた。

自販機で購入できるのはカップ酒しかないが、これも一応日本酒である。

部屋に戻ろうとしたとき、ふと玄関に目をやると、今の今まで考えていた人物が靴をしまっているところだった。

「お、どこ行ってたんだ。」

すかさず声を掛けた。

聞けば、顔が真っ赤になるくらい寒いのに、コンビニへアイスを買いに行っていたと言うではないか。

門限まであまり時間は無いとはいえ、先程の小牧との話を思い返し、コートの前を合わせてもじもじしている郁を誘おうとするが、いざとなると言い淀んでしまう。



「あ、じゃあ…あたし、柴崎が待ってるんで」

「そうだな、溶けるもん持ってるし」

しまった、そうだった。よりによってアイスを持っているじゃないか。

何もこんな時に、溶けるもんなど持ってなくてもいいのに。

「…タイミングが悪かったか」

女子寮へ駆けるように戻って行く郁を見送った堂上は、軽く頭を掻きながら、自分の間の悪さにぼそりと呟いた。





◇◆◇





数日後、堂上の部屋でまたいつものメンバーが揃って部屋呑みをしていた。

特に何があるわけでもないのに、二人とも呑みたくなるとここへ足が向いてしまうようだ。

とりとめのない話をして笑う、ただそれだけだ。



「あー、そう言えば堂上、例の件実行に移せたの?」

突如小牧が話題を変え、意味深な笑顔を堂上に向ける。

ん?なんのことだ? 小牧の笑顔が気に掛るが、何を問われているのか解らない。

「ほらー、この間悩んでたでしょ。どこでキスすればい… ぶほっ…」

小牧の言葉が途中で止まったのは、決して自重したからではなく、堂上が手元にあったクッションを小牧の顔面めがけて投げつけたからである。

「おまっ! ここだけの話にしろって言ったろうがっ!」

「だから、堂上の部屋だったらいいんでしょ。そういう意味じゃないの?」

「アホかっ貴様! お前わざと意味間違えてんだろーがっ!!」

俺は堂上たちがキスできる場所が無くて困ってるって言うから心配で… うるさい!黙れ!誰が心配してくれと言った!! だから官舎裏でってアドバイスした責任上… アホウ!何が責任だっ!黙れと言ってるのが解らんのかっ!!



まるで子供の喧嘩のように、クッションでボカスカと殴りあう。

尊敬する上官たちのありえない姿を目にした手塚は、唖然としたまま動けなくなった。

しかも、漏れ聞こえる内容があまりにも恥ずかしい。恥ずかしすぎる。

キスできる場所が無くて悩む上官など、想像したくもない。

「お前はっ! 手塚の前でなんてこと言いやがるっ!」

「だってー、手塚だって近いうちに、同じことで悩むかもしれないでしょ。

だったら、上官としてアドバイスしてやればー? 班長。」

いつまでも続く言い合いの中に何故か自分の名前が出てきて、今日この場に居合わせたことを呪いたい気分に苛まれる手塚であった。





堂上が、無事実行に移せたのは、これからまだ暫く先、年が明けてからのこと。


END




こちらの2作は正に関東図書基地広報課!!
女子寮パートと男子寮パートの日常ですね♪
女子同士の会話とか、教官二人のやりとりから堂上と郁の関係の発展がきちんと見えるのが凄いですよね。
郁ちゃんを想うがあまり超いっぱいいっぱいの堂上教官が可愛くて大好きです。
クッションで殴りあう教官2人、超萌える///
鯛枝朗様への感想は私宛にお送り頂きましたらお伝えさせて頂きますv
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Posted on 2012/02/28 Tue. 21:13 [edit]

category: 素敵頂き物♪

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